…出ない。
その夜、小倉さんから折り返し電話が掛かってきた。
夢で見た内容をそのまま伝えると、小倉さんは俄に電話口で泣き始めた。
聞いてみると、俺が夢を見る数日前のちょうどクリスマスの日、さっきちょっとだけ出てきた彼氏に、とてもここでは書けないような酷い仕打ちを受けて、別れたばかりだそうだ。
俺は心臓が止まるかと思った。
予知夢っていうのかな。
俺は元来そういうのは一切信じないタイプだったんだけど、この一件で考えを改めた。
そんなことって実際にあるんだ
それを機に、また小倉さんとだけ連絡をとるようになった。
そんなある日、俺がふいに小倉さんにメールを送ろうとした瞬間に、あっちからもメールが来た。
運命かもねーwww
なんて話をした直後に
『うん、運命だ。おまえの事が好きだ付き合ってくれ、断っても良いよ勝手に好きでいる』
ってな感じのメールがきた。
その時はうつ病()のピークで、ぶっちゃけ付き合うだのどうだのですらとにかくめんどくさかった。
とりあえずOKしといた。
そして、思いもかけぬ形で小倉さんと付き合い、年が明けた。
ちなみに小倉さんは美容系の専門学校に通うパチンカスになっていた。
年が明けて2011年。
だから去年の話か。
俺は相変わらず半ニート生活で、小倉さんもパチンカスだった。
で、近付いてきたのは成人式。
小倉さんに会いたいのとリフレッシュ()とを兼ねて、俺は帰省することを決心した。
とはいっても住民票は地元に起きっぱなしだったので成人式の招待状は実家に届く。
でも実家とは色々あって絶縁状態だったので、成人式には出られないんだけど。
職場の人間と顔を合わせないよう細心の注意を払い、自宅を出る。
そのまま新幹線に乗り、一路地元へ。
んで、結構な時間をかけて地元到着。
帰省直前に小倉さんとプチ喧嘩をしてしまい、ほんのちょっとだけ気まずい空気が流れてたんだよね。
んで帰省することは伝えてなかったから、急に帰って驚かそうと思ってた。
小倉さんの住んでるマンション前につき、電話をかける。
俺『ただいま』
へ?
みたいな感じですっとんきょうな声をあげる小倉さん。
萌えた。
んで帰ってきたよーって伝えると、今度は声にならない声をあげてた。
しつこいがまた萌えた。
ちょっと待ってて!
と言って電話を切る。
待つこと30分ほど。
そろそろ凍死しようかとした頃、とてとてとマンションから小倉さんが出てきた。
俺を見付けるなり駆け寄ってきて、
『おかえり!』
って言って抱き付いてきた。
だから何でそんなにいちいち良い匂いがするんだよ。
そのまましばらく抱き合ってたのかな、どちらからともなく離れた。
成人式を翌朝に控えていたのだがそんなのお構い無し、そのまま二人で繁華街へと向かった。
着いた先はカラオケボックス。
やっぱり小倉さんの歌はうまかった。
シメにモーニング娘。の
でっかい宇宙に愛がある
を二人で歌い終わったあと、わけのわからんテンションでまた抱き合った。
そして朝マック()をして日が昇りかけたころ、小倉さんは着物の着付けのために一旦帰宅した。
一人で、冬の地元をひたすら歩いた。
懐かしい道があった。
そしてそのまま、歩いて成人式の会場を目指した。
一時間かけて到着したら、まだちょっと早い時間だったのでひたすらタバコを吸っていた。
途中、小中と一緒だった懐かしい面子と顔を合わせる。
田舎なのでなにぶん知り合いと出くわしやすい。
成人式の時間がちかまり、会場にはだんだんと人が増えてきた。
そんな中俺は、タバコをふかしながら下位のティガレックスにフルボッコにされてました。
巷では3rdが流行っていたのに一人だけ2ndGやってた。
式場への入場が始まり、一人だけ取り残される俺。
成人式に出る予定は無かったので、そのまま時間を潰す。
終わって皆が出てくる頃、俺は新成人祝福のジョジョ立ちをしていた。
顔も知らないいろんなDQNと写真を撮りまくった。
そして、小倉さんも会場から出てきた。
晴れ着姿の小倉さんは、本当に眩しかった。
きれいだった。かわいかった。
で、俺の地元はまあ素晴らしく田舎なわけだ。人が少ない。
そしてうまい面子には俺と同学年が多い。
その二つが符合するところはつまり……
速攻見つかった。
捕縛される俺、気付けば優男たちも来ている。
同窓会後に会う約束を強引に取り付けられ、その場は解散。
俺は小倉さんと二人で回転寿司を食べにいった。
そして、着物を返しにいくだのなんだので、小倉さんとも一旦別れる。
俺は中学校の同窓会に出る予定だったので、そのままネットカフェで仮眠を取った。
そして同窓会の会場へ。
懐かしい面々が居た。
当時はまだ自分は『普通』と呼べる人間だったので、友達もそれなりにいた。
乾杯の合図で始まる同窓会。
俺は、テンションを上げるためにビールを何杯も一気した。
千鳥足になりながら、皆に挨拶していく。
当時好きだった森木さんとも話せた。
飲み過ぎて途中で記憶が飛んでしまい、終了。
ちょっと酔いが醒めた頃には、同窓会は終わっていた。
その日は、また違うラブホに泊まった。
深夜に、部屋を間違えたデリヘル嬢が入ってきたのにはびびった。
んで早朝、小倉さんからいまどこにいるのー?と電話が。
ラブホの場所を伝えると、あそこねー、わかったーって言って電話を切った。
一発で場所がわかる小倉さんを見てちょっとへこんだ。
ほどなくして小倉さん到着。
お風呂入ってくるねーって言うなり、浴室の方へ向かっていった。
これはもしや…
とか思ってたらひょっこり顔を出して
『のぞくなよ』
だって。
んでお風呂から上がり、髪を乾かしながら今度はテーブルにかけた。
ついに初セクロスかと胸が高鳴る俺。
…が、テーブルには美容系の専門学校のテキストが。
その後は何事もなかったかのように小倉さんが勉強を始めたので、俺も已む無く横の布団で眠りに落ちるのでした。
その頃には小倉さんの学校も始まっていたため昼頃には小倉さんとも別れて、俺は一人で懐かしい場所を巡って回った。
んで夜に再会して飯を食って解散、ってのが数日続いた。
そしていよいよ最後の日。
特に感傷に浸ることもなく、淡々とお別れを済ませた。
これが一月の半ばのこと。
あ、で、この頃くらいに、小倉さんの勧めもあって俺はまた件のSNSサイトに再登録していた。
一体何回目の登録なのかは忘れた。
東京に戻ってからは相変わらず枯れた日々を送っていた。
だが、そんな日常も終わりを告げる。
仕事に復帰する日程が決まったのだ。
Xデーは3月の15日。
それが決まったのが2月の頭だから、猶予は1ヶ月ちょっとあるわけだ。
俺も復帰に向けてジョジョに体を馴らしていった。
…だが、そんなちょっとだけ充実した生活に何か違和感を感じるようになる。
そうだ。
小倉さんと連絡を取りづらくなっていたのだ。
メールの返事がだんだんと遅くなってきた。
電話に出ない事が多くなってきた。
そして、それを決定付ける出来事が。
2011年の3月11日。
東北を中心に東日本が未曾有の被害を受けた大地震。
俺の住んでいる場所では震度5強を観測した。
んで元来チキンな俺は、地震が怖くて仕方なくて小倉さんに連絡したんだ。
でも出ない。
もうダメなんだなと悟った。
でも微かな希望に賭けた俺は、諦めずに連絡を取ろうと試みたが、それでもやっぱりダメだった。
そうこうしている内に、職場に復帰してしまった。
しばらくして、小倉さんに電話したら
『この電話番号へは現在、お客様のご都合によりお繋ぎできません』
という機械音声が流れてきた。
どうやら着信拒否されたみたいだ。
そして復帰してちょっと経った4月の頭、唐突に小倉さんから電話がきた。
まずは、これまで連絡を取らなくてごめん、と謝られた。
そして、何かを言い淀む小倉さん。
内容は大方想像がついたので、続きを促す。
そしたら、端的に言うと、他に気になる人が出来たから別れてくれ、ってことだった。
つり橋効果って奴なんかね。
普段体験しないような出来事(今回なら予知夢)のなかで芽生えた恋ってのは、冷めるのが早いっていう。
気持ちの整理をつけるには十分過ぎるほどの時間があった俺は、特に食い下がることもなくOKした。
最後に小倉さんが発した言葉は、syrup16gの来週のヒーローって曲の一節だった。
『あなたも素晴らしい日々であるように』
ちょっと泣きそうになったがなんとか堪えた。
電話をきった。
泣いた。
また一つ何かが終わりを告げた。
今度こそもうダメだと悟った俺は、まずはSNSを退会、次に、携帯に入っていたネット関連で知り合った人全員のメモリーを削除した。
んで、メモリーに登録していない番号からの着信は、自動で留守電になるように設定した。
最後にメールアドレスを変更。
これでもう、連絡をとることができなくなった。
たったこれだけのちっぽけな電子データで繋がっていたのだと思うと、涙と笑いがこみあげてきた。
2011年の4月のことだった。
そこから今日まで、何をしても孤独で空虚な状態です。
秒速5センチメートルを見てちょっと死にたくなったくらいかな。
もう好きではないんだけど、気付けば小倉さんのことや楽しかった日々のことを思い出す。
思い出を反芻しながら生きていく終わった日常。
これで、ほんの些細な気持ちでうまい棒を配った事に端を発した、4年に渡る僕の長くて珍妙な物語は終了です。
もしあの日あの時あの場所でうまい棒を配っていなかったら、今の僕はありませんでした。
多分彼らと出会うこともなく、地元で就職して本当にくだらない人生を歩んでいたのかもしれません。
そのせいで色々と悲しい思いもしましたが、これで良かったのかどうか、今の僕には何もわかりません。
これからも、地元のうまい面子と再び連絡を取る気はありません。
きっと孤独と虚無感とsyrup16gを友としながら、ただひたすら終わりを待つ生活が続くんだと思います。
何もオチがなくてすみません。
これで、僕の話は終わりです。
こんな糞スレに最後まで付き合ってくださった方、本当に、本当にありがとうございました。
人生はながいよ
なんかすごかったな。
大事なこと書き忘れてた
またいろいろやればいいだろw
んでちょっとだけ連絡とるようになって、結構重要な話を聞いた。
というかそれが目的でこのスレを立てたんだった。
お疲れ
ちょっと俺もうまい棒買ってくる
えっとだな、あれだ、その…
小倉さんが、行方不明になったらしい…
肥後や織田も心配してます。
こんなことしかできなくてごめんなさい。
誰もおまいを恨んだりなんかしてないから、だからどうか連絡をください。
じゃないといじけるぞ。
これで僕の話は本当に全部終わりです。
最後の最後にスレ汚しすみませんでした。
さよなら。
長え
面白かった!
小田さんみてくれてたらいいな(´゚ω゚`)